さて、時間と歴史に介入するものと言えば、画面の前の読者の皆様にとっては何であろうか。少し前の作品となってしまうかもしれないが、某仮面ライダージオウのタイムジャッカー辺りが印象深いかもしれない、私にとっては。だが、歴史と時間に介入するという事は一体何を起こすのか。もうお分かりであろう、「未来改変」である。それもまた当然の事である。今の時代に存在しない「誰か」がいるだけで世界の歴史は歪んでしまう。その結果どうなるのか。その世界の歩むはずだった歴史は、否応なく未知の方向へと舵を切ってしまうのだ。
憧れの少女であり演劇部の副部長、藍にまた今日も話しかける事が出来ず。ヘタレな心を抱え、今日もまた溜息を吐く普通の少年、大地。
そんなある日、彼の前に突然現れた謎の時空の穴から一人の少女がやってくる。彼女の名は七彩(表紙右)。彼女は自分が藍と大地の娘であり、未来で空回り気味の将来のお父さんを何とかしたくてやってきたと告げる。
「ところでさ、安達は演技のなにを悩んでいるの? 僕なんかが聞いたところで役に立てるかわからないけど」
訳も分からぬままに彼女に背を押され。彼女の助言に基づき、何とか藍へと話しかけ。そこから始まる二人の関係は、急速に深まりを見せていく。
そこでそのまま進めば、この作品はMF文庫Jの某せかむすのような作品となっていたのかもしれない。しかし、この作品のタイトルをよく見てほしい。増えるのである、娘は。
大地をパパと呼ぶ彼女の名は花蓮(表紙左)。大地にとっては影の薄い、秘かにVtuber活動に励む級友、宇美との間に出来た娘である。
一人でも手一杯と言ってもいいのに、二人に増え。更には二人の娘の間で板挟みとなり。そんな中、大地は二人の娘がそれぞれ抱える悩みと両親への思いを目にし、目の前で確かに変わっていく世界を目の当たりにする。
「・・・・・・僕も、そうだった」
今までのままでは立ち止まっていたかもしれなかった。けれど、今は違う。胸の中には自分を救ってくれた、嘘なんかじゃない彼女の笑顔が残っている。いつも自分の味方でいてくれる、未来の娘が二人もいる。
だからこそ、今、勇気を出して。必死につかんだ機会と踏み出した勇気は、確かに娘へ繋がる未来を引き寄せるから。
今慈ムジナ先生と言えば、どこか不思議な世界観。この作品もまた、そういう何処か不思議な風の吹く世界である。そんな世界の中で、わちゃわちゃとした賑やかさを繰り広げながら、未来のために奔走する。だからこそ面白い。胸がすくような爽やかさがあるのがこの作品である。
少し不思議な世界観を楽しみたい読者様、わちゃわちゃとしたラブコメが好きな読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
時をかけてきた娘、増えました。 (ガガガ文庫 い 9-5) | 今慈 ムジナ, 木なこ |本 | 通販 | Amazon