読書感想:転校先の清楚可憐な美少女が、昔男子と思って一緒に遊んだ幼馴染だった件

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方は忘れられない、離ればなれになってしまった友人という存在はおられるだろうか。今も尚忘れられぬ、けれど繋がってはいない。そんな友達はおられるだろうか。

 

 

物語が始まる七年前。月野瀬という田舎町で、二人の少年が永遠の友情を誓い合い、片割れの引っ越しにより離ればなれとなった。

 

 そして別れから七年後。月野瀬を出て転校してきた都会で、再会の時は訪れる。但し、主人公の隼人にとって男友達だったはずの春希(表紙)は、実は女の子だったという衝撃の事実付きであるが。

 

同じ名前、自分にだけ向ける微妙な視線。けれど周囲の評価は高嶺の花。思い出の姿とは食い違う今の姿に戸惑う隼人。

 

「貸しかぁ、懐かしいよね。隼人はこれで一体ボクにいくつの貸しがあるかな?」

 

「それはこっちの台詞だ。春希だって俺にいくつもの貸しがあるだろ」

 

「あは、違いないや」

 

けれど連れ出され連れ込まれた春希の家。自分にだけ見せてくれる、「ボク」という一人称。その様子に、隼人の中の面影は確かに重なり、まるであの日のように友情は復活する。今も変わらぬ友情はここにある、そう言わんかのように。まるで打てば響くような息ぴったりのやり取りは、あの日と何も変わらずに。

 

そして二人の時間は幕を開ける。あの日と変わらぬ、二人で共に過ごし駆け抜けたあの幼き日の時間を取り戻さんとするかのように。

 

「実はボク・・・・・・・・・・・・友達とお昼を食べるのが夢だったんだ」

 

ある日は彼女に用事を偽って連れ出された「秘密基地」と題した空き教室で、二人きりでお昼を食べたり。

 

またある時は、コイバナが苦手だと愚痴り合って、顔を見合わせて溜息を吐いたり。

 

 あの日と変わらぬ二人の関係、そして友情。けれど変わってしまったものも確かにある。自分が知らぬ間に春希が抱えていた心の闇がそこにある。

 

「良い子で待ってるんだけどなぁ」

 

いつもの様子を装いこぼれた弱音と本音。それは擬態でも、自分だけが知る顔でもなく、年相応かそれ以下の、寂しさを抱える幼子のように。

 

「これ、貸すよ」

 

「ん・・・・・・貸されとく」

 

 けれど隼人は無理に聞き出すわけでもなく。ただ寄り添い彼女を受け止める。「友人」として、変わらぬ友情を胸に。それは何処か、家族のように温かく。

 

受け止められ安心できた春希の心に芽生えた言い知れぬ想いのその正体、それはきっと青春の音色と風を連れてくる熱くて甘い想い。

 

楽しく甘いだけではなく、何処か影を含んでいて。けれど変わらぬ友情が真っ直ぐだからこそ、甘くて。だけどもどかしくてこそばゆい。だからこそ、この作品はラブコメとして一つの完成形に至っており、胸を張って面白いと叫びたい作品なのである。

 

幼馴染好きな読者の皆様、甘酸っぱくて少しビターなラブコメが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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