さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。結婚しておられる読者の方がおられたらお聞きしたいのであるが、「結婚は人生の墓場」というのは本当なのであろうか。結婚はゴールなのか、スタートなのか。結婚は二人三脚のマラソンというのは本当なのであろうか。
「私はもう、あんたの事なんか完全にフッ切ってるんだから」
「奇遇だな。俺が言いたいこと全部言ってもらえて、ありがたい限りだよ」
さて、いきなり上記の台詞は何なのかと聞かれれば、開始19ページで繰り広げられる、主人公とヒロインの丁々発止の口喧嘩である。いきなり何か剣呑な関係であると察された読者の皆様、それは間違いではない。
何故なら、この作品の主人公である晴(表紙右)とヒロインである二歳年上の幼馴染、理桜(表紙左)は元恋人同士である。かつて結ばれ男女の関係として付き合いながらも、一年もたたずに別れた恋人同士である。
ではなぜ、この二人はこんなやり取りをしているのか。
それは、この二人がお互いの事情により、仮面夫婦として偽装結婚をする事になったから。だがしかし、これだけではこの二人を語る全てには遠い。
二人を語るうえで欠かせぬもう一つの真実。
俺がまだ。
私がまだ。
あいつに未練タラタラだなんて―――
もうお分かりであろう。この二人、一度終わった関係だけど未練タラタラな同士である。一度途切れてはしまったけれど、それでもまだお互いを好きな両片思い同士な関係である。
そんな二人は、お互いの恋心を隠しながらも夫婦となる。理桜は実家の老舗和菓子屋メーカーを経営不振から救う為に。大企業の直系の三男である晴は出奔した次男の嫁からの女性としてのアプローチを避けるために。
では、一体二人の生活はどんなものであるのか。
「そういう男と結婚しちゃったんだから、頑張って美味しいご飯を作ってやるしかないでしょ」
ある時は晴に渾身の手作りの晩御飯を振る舞い、失敗してしまった昔を思い出したり。
「ありがとう、晴。私と結婚してくれて、ありがとう」
またある時は、絆を深めると言う名目でバックハグに挑戦し、近づく距離と心で素直に感謝の気持ちを言えたり。
素直になれずにマウント合戦。だけど高じて喧嘩してしまっても、ちゃんと向き合い仲直り。正にじれったくてこそばゆくてもどかしい。あと一歩、それが分かっているのに素直になれない。
そんな素直になれないままに、普通の夫婦も越えた甘々を繰り出している。これが甘くなくて何だと言うのか。夫婦喧嘩は犬も食わぬ、思わず御馳走様と言いたくなる甘さがこれでもかと繰り出されている。だからこそこの作品は面白い。素直になれないからこそ面白いのだ。
望 公太先生のファンの読者の皆様。じれったいラブコメが好きな読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
元カノとのじれったい偽装結婚 (MF文庫J) | 望 公太, ぴょん吉 |本 | 通販 | Amazon