読書感想:遥かなる月と僕たち人類のダイアログ

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月は出ているか、月はいつもそこにある。月とライカと吸血鬼。媒体問わず数多の作品で、題材として多く扱われている「月」という題材。見上げればいつもそこにある、一番近くにある地球の衛星。画面の前の読者の皆様が抱かれる印象はそんなものだろうか、はたまた別の印象であろうか。では、日本最古の「月」を題材にした作品とは一体何なのであろうか。それは恐らく、「かぐや姫の物語」、原題で言うと「竹取物語」であるのかもしれない。

 

では何故、こんな事を最初に語ったのか。その意味を最初に述べるならば、この作品においては「月」という天体が非常に重要な意味を持ってくるからである。

 

 ごく普通の、お人よしな所以外は特に特筆すべき所もない少年、涼間。彼はある日、クラスで何処か浮いている、援助交際の黒い噂もある少女、凌香(表紙)に、クラスでその噂の審議を問いかけるように依頼される。否定するのかと思った束の間、翌日否定どころか肯定する彼女。だが更に予想外の光景が彼を待ち構えていた。

 

見知らぬ男性と彼女が歩いているのを見て後を尾行した先に待っていた光景。

 

 それは男性の絞殺死体という衝撃的なもの。そして凌香は語る。「月」に授けられた呪い、自分を好きになった者は何故か死んでしまうと言う呪いの話を。

 

「―――ああ。月は、凌香から呪いを解けと言われたら断れない。そういう約束だからな。だから言われたくない。たとえ歪んだ生き方だとしても、それで生きていけるならいいんじゃないかと、月は思う」

 

 だが、涼間の願いに応え現れた、「月」という神様でありかぐや姫の正体であるという少女、馨夜は言う。実の親からひどい扱いを受けていた彼女はそうしなければ死んでいた。だからこそ私は、彼女を助けたのだ、と。

 

そう、「月」という神様はこれでもかという程に人間を愛していた。永き時を経ても愚かしい程に何も変わらず、けれど真っ直ぐに進む人間達の生き方をどこか羨望し、そして愛していたのだ。

 

そんな彼女が愛した生き方をそのまま体現するかのように、涼間は凌香や馨夜とダイアログという題名に相応しい会話劇を繰り広げながら、彼女の呪いを解くために奔走する。

 

 

その結果は果たしてどういうものになるのか。それは是非、画面の前の読者の皆様の目で確かめてみてほしい。

 

けれど、確かな事は一つある。

 

それはこの作品が人間賛歌に満ちており、人を愛する神様がいるからこそ生まれた面白さに溢れているという事である。

 

遥かなる月と僕たち人類のダイアログ (講談社ラノベ文庫) | 深雪 深雪, 桜河 ゆう |本 | 通販 | Amazon