読書感想:義妹生活

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。特に男性陣の読者の皆様。貴方方は弟妹が欲しいと思われたことはあられるであろうか。特に、異性の弟妹が欲しいと思われたことはあられるであろうか。だが、弟妹が欲しいと願ってみてもそれは簡単ではなく、そしていざ出来てみると何だか上手くいかないという事も多いと言うのが常なのかもしれない。

 

何処にでもいる普通の高校生、だが何処か周りに対して覚めており、活字中毒と言わんかの如きレベルで本が大好きな少年、悠太(表紙左)。

 

 父子家庭で育ってきた彼はある日突然、父親から再婚し妹が出来ると言う事を伝えられる。だがしかし、いざ顔合わせの場に行ってみると来たのは同級生であり、何処か不良めいたルックスと悪い噂が絶えない美少女、沙季(表紙右)であった。

 

義母となる沙季の母親との顔合わせもとんとん拍子に終わり、いきなり始まる二人の義理の兄妹関係。

 

普通であればうまくいかないと思えるかもしれぬ、二人の関係。だがしかし、二人にはとある共通点があった。それは、互いに両親が配偶者と不仲になる瞬間を見てきたという事である。

 

「全人類がそんなふうにやれたらラクなのにね。私と浅村くんみたいに」

 

「そりゃそうだけど、なかなかね」

 

お互いに異性との関係は慎重であるからこそ、まずは互いに手札をさらけ出し。お互いに対立もしなければ過度に関わらぬ、適度な距離感を維持しようと決め合う二人。

 

 画面の前の勘の良い画面の前の読者の皆様、何かお気づきではないだろうか。そう、「適度な距離感」である。普通のラノベで描かれる、義理の兄妹ものの距離感としてはかなり異端と言えるかもしれぬ関係なのである。

 

その距離感、正に等身大で現実的。だからこそ、何処までも現実感のある関係性から二人の関係は始まる。

 

 けれど、二人が始めていく事になるのは、何でもない日々、であるように見えて新しい関係のある「すり合わせ」が必要な日々である。

 

沙季が何故不良のような見た目をしているのかを知る事となったり、お互いの食の好みで新発見をしたり。

 

「それ、俺がいちばん嫌いなタイプの女だよ、綾瀬さん」

 

時に、何かに焦り急ぐかのように自分の身体を武器にしようとする沙季を受け止め、諫めたり。

 

 そんな悠太の何処か不器用だけれど真っ直ぐで、一生懸命で。手探りだけれど妹を救おうとする兄としての行動は、気付かぬ間に沙季の心を救って解きほぐしていく。

 

「浅村くんは私のことを・・・・・・」

 

「理解してくれすぎます」

 

家族の愛情に飢えていた、けれど何処か覚めて距離を取っていた。だけど彼は一番近くて一番遠い、そんな都合の良い距離から欲しい物を与えてくれる。

 

甘えすぎてはいけぬ、だから兄とは呼べないけれど、何故か今、彼女の胸の奥から溢れるこの感情は何なのか?

 

 この作品はお年頃の二人が本当の意味で「家族」となっていく作品である。そして、何処までも現実的な、けれど特別な日々を一日一日丁寧に積み重ね、その中で揺れ動く感情を繊細緻密にこれでもかと描き出している作品である。

 

じれったくてもどかしい、こそばゆくてどこか痛い。だからこそこの作品はエモい、尊い、美しい。そう胸を張って言いたい次第である。

 

胸を打つラブコメが好きな読者様、しっとりとしたラブコメが好きな読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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