さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方は複数のヒロインが一人の主人公を巡って争うヒロインレースという描写についてどう思われるだろうか。ヒロインレースがある事によって、推しのヒロインが生まれ議論や布教の切欠となったりするかもしれないが、推しのヒロインが主人公と結ばれぬ事で大変なショックを受けられた経験のある読者様もおられるのではないだろうか。ヒロインは一人、一対一の方がよいか、それとも多数の方が良いのか。その疑問の答えは、読者様各自の中にしかないのかもしれない。
ヒロインレース物のラブコメで一発で人気を掴み、売れっ子漫画家となった高校生の少年、錬太郎。だがしかし、彼は現在、心に傷を負っていた。
その理由とは、最終回の展開で涙を呑んだヒロインが出てしまった事による読者間での炎上がトラウマになってしまったからである。
それもまた仕方のない事であるかもしれない。裏を返せばそれだけヒロインが魅力的であったと言う事であり、それだけ人気を博していたという事なのだから。
そんな中、新作で名誉挽回を目論んだ錬太郎は担当編集者である鬼の編集者、萌絵から彼女を作れば連載しても良いという無理難題を突き付けられる。
そんな無理難題から始まるのは、錬太郎を中心としたヒロインレース。同級生の漫画家、むつき(表紙)、漫研の後輩、しおり、そして萌絵の三人による恋愛包囲網である。
が、しかし。錬太郎のことが大好きであるからこそ、彼の想いを慮った三人は話し合い、一つの三人の間でだけ通じる条約を制定する。その名も「告白禁止条約」。錬太郎から告白されるまでは告白しない。自分達からは告白しないという条約。
ただし、好きになってもらう為ならば手段を選ぶ必要はない。そんな条約から始まるのは、錬太郎へのアピール合戦であり、彼の知らぬ間に繰り広げられるヒロインレースである。
ある時はむつきに迫られたかと思えば、またある時は萌絵に迫られ。
「つまり―――ヒロインレースはもうやめませんか?」
「ダメ」
それは正に手を変え品を変えの、三人のヒロインによる心理戦。誰もが相手を出し抜き一歩先んじようとする、正にヒロインレース。
だけど止められない。一度始まってしまったものはもう、止められないのである。
全体的にコメディ強め、軽めの文体で描かれる、まるでポップミュージックのような、ラブコメ。今作品を評するならそんな評価が良いのかもしれない。そして、そんな明るくて楽しいところがあるからこそ、この作品は面白いのである。
コメディも楽しめるラブコメが読みたい読者様、魅力的な登場人物を味わいたい読者様にはお勧めしたい。
きっと貴方も満足できるはずである。
ヒロインレースはもうやめませんか? ~告白禁止条約~ (電撃文庫) | 旭 蓑雄, Ixy |本 | 通販 | Amazon