さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方は既に遠くに置いてこられたゼロ年代のライトノベルの主流の題材をご存じであろうか。そこのところは各自調べていただくとして、貴方には忘れられない季節というものはあられるであろうか。
物語の舞台となるオリガ戦没記念都市。四季の瓦礫が美しく災厄と祝祭を連想させる不思議な街。その街で、カオナシと呼ばれる、少女整備士という職業であり詩を書くのが趣味な少年、オリガミは一人の少女と出会う。
彼女の名前は赤朽葉カレン(表紙)。人工天使・制服少女委員会に属する少女であり心を対価に「冬時間」と呼ばれる時間から襲来する転生生物を迎撃する任を負った少女である。
失われゆく心、その心を対価に戦い命を賭け、そして最後には散る事を義務とされ。
「痛みは私を満たしてくれますか?」
そんな中、彼女は彼へと問いかける。自分の心を何で満たせば良いのかと。
「初恋が人間らしい感情と聞きました」
「私と付き合ってくれますか」
そして、彼へと問いかけ手を伸ばす。まるで自分の中から失われたものを埋めようとするかのように。
だが。だがしかし。世界は美しい、戦う価値があると誰かが言った。果たして本当に、それは正しいのか。本当にこの世界は美しいのか。戦う価値も、守る価値も本当にあるのか。
世界の真実は時に残酷だ。真実ほど人を魅了するものはないけれど、時に人に一番残酷で傷つけるものこそ真実なのだ。
そう、全ては最初から破綻していた、矛盾していた。掲げられたお題目なんて意味はなく、犠牲を積み重ねても何も得られなかった。
だが、確かにそんな世界の中でカレンやオリガミ、そしてその仲間達は必死に生きていた。様々な思いが交錯し、時にぶつかり合うこの残酷な世界で、それでも力の限り生きていたのだ。
「泣くという感情が少しだけわかった気がする」
その結末は果たして祝福か。本当に世界は救われたのか。この世界は本当に美しくなったのか。
それは誰にも分からない。だがしかし。誰かにとって、例えばオリガミにとっての「救い」は確かにあったのだ。
考えるな、感じろ。この言葉が似合う作品もそこまで無いのかもしれないけれど、この作品は正にその言葉がぴったりとあてはまる。
ただ感じてほしい、しんしんと降り積もる雪のように降ってくる子供達の思いを。
そして考えてみてほしい。この作品に込められた意味を、願いを。
何処かノスタルジックな読後感に浸りたい読者様。考えられる作品が好きな読者様にはお勧めしたい。
きっと貴方も満足できるはずである。
雪の名前はカレンシリーズ (講談社ラノベ文庫) | 鏡 征爾, Enji |本 | 通販 | Amazon