読書感想:黒鳶の聖者 1 ~追放された回復術士は、有り余る魔力で闇魔法を極める~

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方は近くにあったのに気づけなかった大切なものはあるだろうか。近くにあったのに、無くしてから人は初めてその大切さに気付くと言うけれど。果たして、そんな体験をされた読者様はどれほどおられるのだろうか。

 

幼馴染同士で結成された「勇者」パーティ。その一員であり、最高クラスの職業である「聖者」である青年、ラセル(表紙左)。が、しかし。彼は今追放の鬱き目に遭っていた。その理由は、パーティ全員が回復魔法を覚えてしまい彼の特別性が薄れたという理由である。

 

夢破れ故郷へと一人戻ったラセルは謎の少女と遭遇する。彼女の名前はシビラ(表紙右)。職業や魔物に詳しく、初対面であるラセルに神を信じるかと謎の問いかけをしてきた者である。

 

彼女の知識は頼りになるとパーティを組み。共に潜ったダンジョンで遭遇したのは、人類最大の敵である「魔王」

 

もう終わりかと思われた絶体絶命のその時。自らを「宵闇の女神」であると名乗ったシビラは、ラセルに契約を持ち掛ける。それは、自分の今までの軌跡を全て糧とし、最強の魔法を手に入れるという禁断の契約。

 

が、しかし。全ては犠牲とならなかった。何故か。それは今までシビラが契約してきた者達とは違い、ラセルには才能が有り余っていたから。その才能により、今までの職業である聖者と闇の魔法を両立できるほどの才能があったから。

 

「―――今日が『主役』の始まりの日だ」

 

有り余る力で最強の魔法を手に入れ、ラセルはシビラと共に最強への一歩を踏み出していく。

 

が、それと比例するかのように、徐々に凋落の一途を辿り始める者達がいた。何を隠そう、ラセルを追放した幼馴染達勇者パーティである。

 

謎の美女であり、心からの善意で全てを気付かぬ間に壊していくケイティに気が付かぬ間に目を付けられ、気付いた時には中枢にまで入り込まれ。幼馴染達はすれ違い、瓦解を始めていく。

 

その一歩として、パーティを離脱し己の心のままに暴走を始めた聖騎士、エミー。彼女の心は壊された、只一つ、心からの善意により。もう戻れぬと気付かされてしまった、自分の本当の望みの姿に。彼を助ける為だけに求めた力が、結果として彼を傷つけてしまったという事に。

 

そんな彼女の心の傷に寄り添い、彼女の本心をようやく気付き。

 

「もう一度、幼馴染をやり直さないか」

 

そしてラセルは、エミーへもう一度手を差し出す。またもう一度、共に進んでいこうと。共に進んでいこうと。

 

そう、正にこの作品に溢れているのは繊細で切ない、登場人物達の「生の感情」なのである。そんな感情が緻密に、創り込まれた世界の中で描かれる。だからこそこの作品は面白い、そう言いたい。

 

王道なファンタジーが好きな読者様、繊細な心理描写が好きな読者様にはお勧めしたい。きっと貴方も満足できるはずである。

 

黒鳶の聖者 1 ~追放された回復術士は、有り余る魔力で闇魔法を極める~ (オーバーラップ文庫) | まさみティー, イコモチ |本 | 通販 | Amazon