さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方は何か挫折をしたことはあられるであろうか。何か人生を賭ける程にのめり込んで熱中し、その果てで失ってしまった大切なものはあられるであろうか。
母親と共にとあるマンションへと引っ越してきた少年、聖也。彼は今、人生の残り全ては余生であると公言する程に無気力に苛まれてきた。
それは何故か。それは、両親の離婚が原因だろうか? 答えは、否。その理由とは、人生を賭ける程に打ち込んでいたバスケという熱を、利き腕の骨折という取り戻しのない理由で失ってしまったからである。
この先、自分の生きてきた年齢の、普通に考えれば三倍以上は長く続いてく筈の人生と言う名の日常。だが、聖也はそれを全て余生だと言い張る。
画面の前の読者の皆様、その中で大人な読者の皆様であれば何を言うのだと思うかもしれない、彼の事を諭したくなるかもしれない。だがしかし、その絶望は、諦観は、若さ故の青さなのだ。大人になれば確かに色々な選択肢が見れるし、余裕だって出来る。だけど、余裕がないのが子供というものである。そして、若くて青いからこそ、彼は等身大なのである。
そんな彼へと迫る可愛らしい影が一つ。それこそこの作品のヒロインである、マンションのお隣さんであり年下の小悪魔ガール、美沙(表紙)である。
「自慢じゃないですが、わたし、大人っぽくてスタイルが良くて、ちょっとえっちです」
小悪魔に目を輝かせながらそう嘯き、するりと彼の懐に入り込んできて振り回してきて。
「もう一度聞きます。聖也さんは過去にしかいないんですか? 本当に『これから』はないんですか?」
「それで気はすみましたか?」
かと思えば、彼の事を真っ直ぐに見つめて、真っ直ぐに問いかけてくる。貴方は本当に、これからは無いのか、と。貴方は本当は、そんな人ではない筈だと。
そう、言うなれば美沙は聖也と何処か似た、言えぬ心の傷と事情を抱えた女の子である。聖也という光に憧れ、恋にも似た想いを抱いていた少女である。そして、彼は聖也にとって初めての相手なのだ。初めて、彼の人生という道の中に現れた、バスケ以外の光なのだ。
例え幻滅されるとしても。それでもその目は裏切れない。自分に出来る事はまだある。だからもう一度、歩き出す力となる。
その時、聖也の心の中に再び灯っていくのだ。あの日の心の中に駆け抜けていた、涼やかで爽やかな青さが齎した熱が。誰にも譲れない熱が。
この作品は、青春の青さが光る青春ラブコメである。そして、聖也と美沙が支え合い、再起し、再生していく、その様を丁寧に描いていく作品なのである。
単純ではない青春ラブコメが好きな読者様、青春の青い熱を楽しみたい読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。