前巻感想はこちら↓
https://yuukimasiro.hatenablog.com/entry/2020/07/02/235702
大切な事を言えなくては伝わらないものがある。伝えたい一人に伝わっていたとしても、本当の意味で示さなければいけないものがある。ならば、画面の前の読者の皆様はそんな時は、どんな言葉と態度でその大切な事を伝えるだろうか。
夏が過ぎ風あざみ、もとい夏が終わって巡り来る季節は秋。では秋と言えば、どんなイベントを画面の前の読者の皆様は連想されるであろうか。体育祭だろうか、文化祭だろうか。それとも別のイベントだろうか。
この作品においては、秋と言えば文化祭である。が、それを前にして啓太と雪菜の関係に波乱の暗雲を運んでくる少女がいた。彼女の名前は飛鳥。何を隠そう、前巻の最後で唐突に登場した、啓太の許嫁を名乗る謎の少女である。
勿論、啓太には何の覚えもなく、一体なんの事だと戸惑うばかり。だが、文化祭を前にして啓太と同じクラスに転入生としてやってきた飛鳥は、真っ直ぐに体当たりと言わんばかりにその溢れんばかりの思いを真っ直ぐに伝えてくる。
無論、画面の前の読者の皆様はもうお分かりであろう。その仮定の元に言ってしまえば、覚えがないというのはそもそも覚えていない、という事ではなかった。本当に彼にはその覚えがなかった。つまりは、そういう事である。・・・と言いたい所ではあるが、そもそも前提条件に認識の齟齬があると言うのもお伝えしたい。
例えその想いを向けられるべき相手では無かったとしても、僅かでも過ごした時間は本物である。そして、飛鳥にとっての王子様は啓太で間違いはなかった。逆に彼女だからこそ、普通ではできない距離でのスキンシップもまた出来たのかもしれない。
そんな彼女に負けじと樹里もまた、新たな動きを見せ始め。彼等の錯綜する思いを抱えたまま、文化祭の幕、啓太達のクラスの出し物の演劇の幕がは上がる。
では、我らがヒロインである雪菜は何もしていないのか。無論、そんな訳はない。寧ろ彼女がいたからこそ、雪菜の新たな一面は啓太の前で発揮されるのである。
「・・・・・・飛鳥ちゃんとは、『フリ』でもそういうことできるのね」
練習風景を見て思わず溢れ出した本音は、痛いくらいに啓太の心を刺し。
「・・・・・・今まで我慢していたぶん、今日はめちゃくちゃ甘えるってこと。覚悟してよね」
倒れた飛鳥の代わりとしてヒロインとして上がった舞台で、台詞に乗せた思いで啓太の心に本心をこれでもかと突き付ける。
そう、大切な事はきちんと言わなければ伝わらない。そういう意味では、きちんと本心を伝えた事で二人の関係はきっと深まった筈だ。
ラブコメとしての面白さの段階を一つ上げると共に、奥深さを醸し出させて更に面白さを増してくる今巻。
前巻を楽しまれた読者様は是非。ラブコメ好きな読者様は是非前巻と併せて。
きっと満足できるはずである。