前巻感想はこちら↓
https://yuukimasiro.hatenablog.com/entry/2020/04/26/235912
さて、夏休み。それは輝かしき魅惑の言葉であり、とても嬉しいものである。だがしかし、画面の前の読者の皆様の中で社会人でない読者様は一抹のお覚悟を決めておいたほうがいいのかもしれない。何故ならば、社会人は基本的に夏休みが無い。小説家等の自分でスケジュールを決められるような方々を除き、大抵の社会人には職種にもよるが大体お盆休みくらいしかないのが普通なのだ。
という訳で、この巻における季節は夏。しかしミオはバリバリの社会人であり、彼女に三十万で雇われている裕二も彼女のお迎えの為に実質、休みはない。
が、しかし。いつの間にか一緒にいるのが当たり前になっていた二人の元に嵐がやってくる。嵐を引き連れてきたもの、その正体は裕二の妹である高校生、裕夏である。
聞けば裕二の故郷である福岡の保護者である祖父の家から家出し、二日分だけ残っていた青春18きっぷを買い、ハンバーガーショップで一個のハンバーガーで朝まで粘るというどう考えても女子高生の行いではないやり方で東京までやってきた彼女。
裕夏の来訪によって明かされる、裕二の家の事情。それはミオにも負けず劣らずの中々に厳しい事情だった。
前巻が始まりの巻にしてミオが抱える問題へ触れていく巻だとするのなら、今巻は受け入れざるを得ない裕夏という異分子を鎹にして、ミオが裕二の内面を知っていく巻と言えるだろう。
そして、嵐のように無軌道な子供を導くのが裕二やミオ達大人の務めであるのなら、時に子供が大人に影響を与えるのも一種の「務め」と言えるのかもしれない。
「これを借りれば返す義務がある。借りたものを返すのは当たり前だが、その当たり前に形のある責任がつくんだ。分かるな?」
只では支援できぬ、約束ではなく「契約」という大人のやり方を裕夏へと教え。
「・・・・・・そっか、会社も通して書面でやればいいんだ」
そして、考え方が大人なままでは見つからぬ解決策へのヒントは、裕夏という子供の口からあふれ出る。
そう、嵐が連れてくるのは荒廃と変化だけにあらず。台風一過という言葉もあるように、晴天だって連れてくる。
そんな今日も続くお仕事の日々の中、裕二がミオの思い出の味を再現したり、土屋君と村崎さんも交えて四人でキャンプと言う大人っぽい趣味に手を出してみたり。
少しずつ深まる二人の関係、そしてちょっとずつ変わっていくミオの心中。
子供とは違って、大人は自分の時間は少ない。だけど時間はある。そして子供も大人も仲間の大切さは同じもの。そして何かを進め、始まるのには子供も大人も関係ない。
まだまだ名前のないラブ未満な二人の関係、深まるさまを読みたい読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。