さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方は声優と聞くと、まず何方の名前を挙げるだろうか。貴方の心の中に、推しと呼べる声優の方はおられるだろうか。
だが二つ、確かなことがある。それは今時の声優は歌って踊れなければ話にならないと言われる事であり。そして綺羅星が如く輝く声優の方々の足元、陽の当らぬ闇の中に幾百万もの日の目を浴びぬ声優の方々がいるという事である。
声優の世界は戦場。生き延びる武器が無ければ淘汰され、消えていってしまう世界なのだ。
そんな光も闇も、酸いも甘いもある混沌とした世界にひょんな事から放り込まれた少年がいた。彼の名前は芥。普通に放り込まれただけなら、すぐにでも消えていってしまう屑星であったかもしれない。だがしかし、彼には未完の大器であるまだ磨かれてもいない、才能の原石が埋もれていたのである。
その武器とは、年齢に見合わぬ渋い声。そして年齢を誤解されてしまうほどの老け顔である。
一つの小さな悪戯により、彼の元に飛び込んできたのは主役と言う突然の大役。
そして、ヒロイン役となるのが彼の「嫁」を演じたサラブレッド声優、ゆすら(表紙)である。
「一瞬たりとも気を抜いちゃだめよ」
手が届かない筈だった画面の向こうの高嶺の花。だが中の人の素顔は自分と同年代である筈なのに、既にベテランの風格を持つ声優の星。
彼女に手を引かれ舞台上に立たされ。何も知らぬ初心者であるのに一端の声優である事を求められ。主人公を演じる事を求められ。
だがしかし、ここには自分が今まで知らなかった世界がある。手が届かない筈だった、高値の筈だった筈の声優の人達がいる。
「すげぇ武器になるってことだよ。ただし、磨けばの話だがな」
そして、好きになれなかった自分の声を認めてくれる人達がたくさんいる。
そう、ここにあるのは未知なる世界の非日常である。そして、自分が主人公になれる可能性が広がっている夢も希望もある世界なのである。
そんな夢溢れる世界が、現役声優である作者様の手によってどこかラノベらしく、だけど密に、とても魅力的に描かれる。
それはまるで、声優の世界という普段は触れられぬ世界へと誘ってくるかのように。
この作品は夢溢れる声優の世界の、陽の部分を切り取り描かれた作品である。そして夢の世界へと飛び込んだ少年が、主人公になるべく努力を重ねていく作品なのである。
声優の世界を覗いてみたい読者様、夢を追う主人公が好きな読者様にはお勧めしたい。
きっと貴方も満足できるはずである。