さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方にとって竜騎士07先生と言えばどの作品であろうか。ひぐらしのなく頃にが一番有名かもしれない、またはうみねこのなく頃に、かもしれない。若しくはおおかみかくしであるかもしれない。そして前述の三つの作品で共通して言えることは、陰惨で凄惨なホラー描写、そして巧妙に張り巡らされた謎を解く、謎解きである。
舞台となるのは昭和二十五年の夏の終わり。この時期の日本は、GHQの占領下であり、まだ新しい考え方が国の隅々まで広がっておらず、古き男尊女卑の考え方が未だに根強い時代である。
そんなまだまだ時代の黎明までは長い時代。東北地方の奥まった地方都市を支配する名家、御首家。その家の御令嬢である茉莉花(表紙上)の元へ派遣された一人の男がいた。彼の名前は磊一(表紙下)。バケモノ達の家庭教師たちであり、世に馴染めぬ者達を救う者である。
彼が派遣されたという事は、最早言うまでもないだろう。茉莉花もまたバケモノの一人であり、人のはらわたを食らい啜る化生の類である。
だがしかし、そんな彼女を磊一は時に優しく、時に大胆な触れ合いを以て接し篭絡し、彼女の耳へと嘯く。自らの脳の中、そこに拵えた巣の中においてはバケモノであって良いのだと。バケモノである自分を諦める必要などない、と。
では何故そんな事が言えるのか。それは彼もまた、バケモノの一人であり自分が恩師と慕う存在に救われた者だから。
密度も具体性も悦楽もけた違いのバケモノ特有の悦楽をぶつけられ、分かり合う磊一と茉莉花。
そんな二人が挑んでいく事になるのは何か。それは抑圧されたニンゲンが殻を破る形で生み出させられるバケモノ・・・ではない。ニンゲンの腐ったような存在であり、肥大した傲慢と暴力性の塊であるクサレモノ。
自分のエゴをこれでもかと振りかざし、茉莉花の所業を隠れ蓑にして行われていた、身の毛もよだつような、ただ欲望を満たす為だけの蛮行だ。
そして、それを覆い隠す謎はこの場所だからこそ出来るトリック。それを解決する為に鍵となるのは、磊一のバケモノとしての力と、この時代だからこそのより大きな権力。
この作品は、人の心に住まう闇、人の心の中のバケモノの醜悪性をこれでもかと描いている作品である。同時に、世からはぐれたバケモノ二人が出会い絆を結ぶ作品であり、バケモノとそれ以外の距離について描いた作品である。
読めば陰惨で凄惨なその様に恐れおののくかもしれない。だが同時に、何かを考えるきっかけになるのかもしれない。
そこに興味がある読者様、竜騎士07先生の作品が好きという読者様は是非。奈落の花辺りをBGMに添えて読んでみてほしい。