さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方はもしいきなり自分に世界を支配できるほどの力が手に入ってしまったらどうするだろうか。世界を支配したとしたら、どんな世界にしたいだろうか。
とある現代世界、とある日本。その国の片隅の街、一人の普通な少女であった筈の檸檬(表紙)がとある力に目覚めた。その力とは何か。
その力は、魔法が存在する異世界の姫としての力。ではその力で彼女は何を行ったのか。それこそがこの作品の題名に記されている、世界征服である。
しかし、彼女はお馬鹿かつ能天気な女の子であった。それが故に望んだ世界征服はどこか未熟な形の、まるで正義の味方であるかのような政策であった。
だが、そんなお馬鹿な彼女の手に宿ってしまったのが世界の誰もが勝てない魔法の力。ではもう誰も彼女を止められないのか。否、彼女を止められる人間が只一人だけいた。
それこそがこの作品の主人公、檸檬の義理の兄であり檸檬と二人暮らしという事もあり現親代わりの兼任する少年、太一である。
世界の覇者にも唯一勝てぬ者、それこそが最強の義兄。強力な力を得ても逆らわないし逆らえない。
だからこそ彼女の暴走は抑えられ、彼女の力は何でもない日常を送る事に向けられていくのである。
時に食料を配ったり、時に温泉を作ってみたり。
世界を支配しているのに、大物になり切れぬ彼女は小物のままに、時に太一を困らせたり振り回したり、その果てに怒られたり。
だが、それこそが彼女の望んでいる日々であり軸が世界ではなく家族であるからこそ、この作品はうまい纏まりを持っているのである。
へりくだって甘やかすのではなくいつもと変わらず、時に厳しくしてくれる義兄がいる。
前と変わらず接してくれる幼馴染のお姉さんがいて、友達がいて。
だから世界を支配すれども統治せず。ちょっとだけ大きな騒動を巻き起こしても、それは家族のじゃれ合いとなる。
「うん。だってあたしにはお兄ちゃんがいるし。家族がいるのはこっちの世界だもん」
檸檬のこの一言、最後に繰り出されるこの一言。この一言に全てが込められていると言っても過言ではない。彼女にとって家族がいるのは異世界ではなくこちらの世界。だからこそ何があっても大切なのはこの世界だし、この世界だからこそ楽しい。
世界を揺るがすシリアスも、子供心と日常の前では関係なし。
そう言わんばかりに日常の尊さと面白さが溢れたこの作品。
ファンタジーをエッセンスにした日常コメディが好きな読者様は是非。
きっと、満足できるはずである。