さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方はもし、自分の隣にいる人が人間以外だったらどうするだろうか。例えば、深夜のコンビニで、自分に応対してくれた店員さんが人間ではなかったら、貴方はどうするだろうか。
この日本には、世の中に紛れ生活を営んでいる闇の種族達がいた。
普段はコンビニの夜勤専属のバイトとして生活している青年、由良(表紙左)もまた二十代くらいに見えて、実年齢は七十代の吸血鬼である。しかし、彼は生粋の吸血鬼ではなく、元人間の吸血鬼である。ならば何故、そんな事になってしまったのか。
それは父を殺した、強力な謎の吸血鬼の女に自らも吸血鬼にされたから。元に戻る為には、父の仇である吸血鬼を殺さなくてはいけない。だからこそ彼は夜の闇に紛れながら、警視庁でトップへと上り詰め今も尚影響力を残す弟、和楽とその家族の手を借りながらも手掛かりを追い求めている。
そんな彼の前に現れたのは、イングランドよりやってきた吸血鬼退治を生業としながらも人間の男が苦手なぽんこつシスター、アイリス(表紙右)。
彼女に押しかけ気味に家に居候され、彼女の任務へと否応なく巻き込まれていく由良。
コンビニの同僚の娘、灯里が出入りしていたクラブの中で行われていた闇取引。
その先に待っていたのは、元凶である吸血鬼、室井との豪華客船上での邂逅。
「させねぇよ」
「あらあら」
だがしかし、敵たる室井の強さはあまりにも圧倒的であり。あっという間に形勢を逆転され由良達は追い詰められ。虎の子の秘策、そして仲間達と共に一撃与え追い詰めれど、そこは五年前にも到達しただけの場所。その先へ踏み出す力は、満身創痍の彼等にはいまだ無く。
「私はあなたに、人間に戻ってほしい」
彼女が抱いた切なる願いは、果たしてかの強敵を打倒し叶える事は出来るのか。
正に現代とファンタジーの秀逸なる融合と言っても過言ではないのがこの作品である。そして、これでもかと緻密に作り込まれた世界観の中でシリアスよりの物語が展開される中、自分を知っている人達がどんどんといなくなっていく絶望に悩まされながらも、それでもと目的の為に進んでいく姿にエールを送りたくなるのがこの作品なのである。
どうか何も聞かずにこの作品を読んでみてほしい。無論、作者である和ヶ原先生が好きな読者様にも読んでみてほしい。そして、全ての現代ファンタジー好きな読者様にこの作品が届いてほしいと願いたい。
きっと、画面の前の読者の皆様も満足できるはずである。高い実力に裏打ちされた既に最強クラスの作品がここにあるので。