前巻感想はこちら↓
https://yuukimasiro.hatenablog.com/entry/2020/04/21/232337
さて、画面の前の読者の皆様はこの作品の前巻の最後、四人の少女が行方知れずになっていた事を覚えておいでだろうか。急な失踪、連絡すらも取れず。では彼女達四人は何をしていたのか。前巻の裏側、何が起きていたかを一言で語るのならば、表舞台にも負けず劣らずの熾烈な戦いが繰り広げられていたという事である。
ティア、アネット、モニカ、エルナ。行方不明になっていた四人は物語の裏側、とある女性に出会う。彼女はアネットの母親、かの記憶喪失のアネットの母親と名乗っていた。
ここまでの前振りで分かっていただけたと思われるが、今巻は今まで記憶喪失が故に謎に包まれていたアネットの過去に触れる巻であり、彼女の凄惨にして悲惨極まる過去を清算し、彼女だからこそ出来る役目へと焦点を当てる巻である。
筆舌に尽くしがたいという言葉がそのまま当てはまるように、凄惨な虐待を受けてきた彼女。目の前にいるのはその原因となった女であり、今まさにチームの絆を崩壊させようとする敵。
敵であるなら、復讐すべき対象であるのなら何をすべきか。それはスパイであれば簡単な事、上手く騙して自らの術中に嵌めて殺すという事。
母と娘、そして敵対するスパイ同士の探り合うかのように交じり合い、相手を騙そうとする丁々発止の心理戦。それは仲間である筈の少女達にも向けられ、協調性は皆無と言わんばかりにぶつかり合いながら術中に嵌めていく。
だが、それでこそ彼女達なのである。協力するのではなく、安易に交じり合うのではなくぶつかり合い、自分達の個性をぶつけ合うからこそ即興の場からでもそれぞれの策が見事に繋がっていくのである。
味方も相手も騙し、一つの街を舞台に駆け回り激闘を繰り広げながら。味方を自らの術中に嵌め舞台裏で綿密に策を組み立て、刻一刻と変わりゆく状況の中を駆け抜けて。
「俺様の爆殺を考えなかったら、生きていられたかもしれないのに」
復讐を果たす為、仲間を守る為。邪悪な心を天使の笑顔に隠しアネットは無邪気に笑う、母親を飲み込んだ爆炎を見つめ。
「アネット、お前が宿す残酷さは、チームの誰とも違う武器だ。間違いのはずがない」
その顔を見つめ、教師としてクラウスは肯定する。彼女の心に秘めた残酷性と邪悪を。
物語の本筋の裏ももう一つの舞台で戦いの舞台。そう教えてくれる今巻。きっと貴方も彼女の術中に踊らされるかもしれない。
そんな事はないという読者様はどうか挑んでみてほしい。きっと騙される筈である。