読書感想:このぬくもりを君と呼ぶんだ

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知りたくて知りたくない、このフェイクだらけの世界で唯一信じられるもの、リアル。

 

さて、画面の前の読者の皆様。貴方は地球環境の悪化、地球温暖化の原因の一つであるオゾン層破壊についてご存じであろうか。オゾン層が破壊されるとどうなるのか。それは太陽から降り注ぐ有害な紫外線が増え地球温暖化が進むという事である。ではその果てはどうなってしまうのか。

 

その答えこそ、この作品の主人公であるレニー(表紙左)が生きる地下世界。有機ディスプレイで空が形作られた、全てが等しく管理された地上によく似せた偽物だらけの世界である。

 

子供達が誰しも地上という本物の世界を見た事がないこの世界で、レニーが出会ったのは自称「不良少女」、もう一人の主人公であるトーカ(表紙右)である。

 

その生まれと生い立ちから差別され、それを当然と受け止めひっそりと暮らすトーカ。

 

彼女とふとしたきっかけで出会い、優等生だった頃からは知らなかった世界を知っていくレニー。

 

二人が交わした約束、それは一緒に自分達だけのリアルを探すという事。

 

そんな二人の仲をまるで焼き尽くし裂くように、空からやってきた謎の石、「太陽の欠片」。それは太陽のなりそこない、誰かの心に反応して熱く燃える厄介者。

 

誰にも言えぬ秘密を抱えてしまい、トーカから距離を取っていくレニー。

 

彼女の変化に気付きながらも自らを晒す事が出来ず、嘘で自分を隠すトーカ。

 

ぶつかり合いすれ違い。絶望に堕ちたレニーは全てを炎に返す事を望む。

 

だけど。

 

だけど、トーカは。

 

彼女を止めるべくひた走る。この世界の全てが偽物だとしても、二人が過ごした時間は確かに本物だと気付いたから。

 

「―――あたしが、レニーの隣にいたいんだよ!」

 

彼女の叫びで気付いた自分の心。それは太陽の欠片なんてフェイクに縋りついていて見失っていた自分が本当に欲しかったリアル。それこそがトーカがくれるぬくもり。

 

そう、この作品はレニーとトーカという二人の主人公が偽物だらけの世界で出会い共に過ごし、そしてすれ違いの果てにもう一度手を繋ぐまでを描いた作品である。そして、二人の少女が互いに大きな感情をぶつけ合う作品である。

 

友情と呼ぶには重すぎるかもしれない。慕情と呼ぶには熱すぎて痛いかもしれない。だけど、名付ける事が難しいこの名もない感情は確かにリアルなのだ。そして、繋いだ手のぬくもり、それこそを君、唯一の自分のリアルと呼ぶのだ。

 

嘘と言う鎧で覆っていた心を守りたくて、もう少しで届くのにと手を伸ばして。その繊細な中身を覗いてみて、リアルを確かめて。きっと会いに行くからと隣にまた、いつものように駆けつける。

 

言葉にならぬ、名も付けられぬガールミーツガールの巨大な感情。だけど、それもまた青春なのである。

 

まだ見たことのない感情に触れてみたい読者様、何かを受け取りたい読者様にはお勧めしたい。きっと、何かを受け取れるはずである。

 

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