突然だが画面の前の読者の皆様、貴方は学生時代の放送部に関する何かしらの思い出はあられるだろうか。かつてお昼の放送を彩ったあの時間、何か覚えておられることはあるだろうか。
お昼の放送で活躍する、だけど部員が二人しかいない実質同好会な放送部。そんな放送部には上品で透明感のある、謎の美声の持ち主がいた。そんな彼女の正体は鈴でも鳴らしたような美少女ボイス、二年生だけどちっちゃな先輩、花梨(表紙左)。そして彼女の声に惹かれ、放送部へと入部した少年、龍之介(表紙上)。
龍之介には花梨に伝えたい事があった。だから彼は目標を立てる、一日三回、一週間続けて褒める事が出来たら伝えたい事を伝えようと。しかし花梨にも願いがあった。余裕のある大人な先輩になって、龍之介に言いたい事があると。
お互いに言いたい事も言えない、だけど言いたい。そんな両片思いな二人が繰り広げるのは恋する言葉のぶつかり合い。
しかし、このぶつかり合いはターン制などではなかった。ずっと龍之介のターンなのである。
さらりと先輩の声が可愛いとほめてみたり。
アニメのワンシーンを元にしたアフレコで、顔色一つ変えずに恥ずかしいセリフをぶつけてしかも実演に持ち込んでみたり。
いきなり先輩を抱えてみてもいいかと言い出し、美術品のように収蔵したいとほめてみたり。
機材の買い出しにいった時には花梨を狙うナンパ野郎共をはっきりとした言葉で退け間髪入れずに花梨を褒めて。
「―――先輩の声が好きです」
不意のアクシデントで彼女が離れてしまった時には、初心を思い出してまるで一世一代のプロポーズが如き誉め言葉を全校生徒へと放送して見せる。
時には正面から、時には不意打ちで。あらゆる方向から手を変え品を変え繰り出される怒涛の照れさせる言葉の数々。
そんな怒涛の攻勢をいつも花梨は避けきれなくて。耐えられずに照れてしまってまるで猫のようににゃーにゃーと鳴いて見せる。
もう君達早く結婚しろください。思わずそう言ってしまいたくなるような、打てば響くという言葉を体現したまるで悶え転がりたくなるような恋のお話。それこそがこの作品である。
もうここまで読んでいただけたのなら分かっていただけるだろう。この作品はラブコメである。文句のつけようがないラブコメである。火の玉ストレートかと言わんばかりの王道ど真ん中、ド直球に勝負を仕掛けてくるラブコメなのである。
だからこそ、言ってしまえば純粋な物語の粗筋がこんなにも映える作品となっているのである。
主人公が押せ押せドンドンなラブコメが好きな読者様もとい全てのラブコメが大好きな読者様、とりあえず何も聞かずに読んでみてほしい。
きっと貴方は、王道だからこその良さをまた知れる筈である。