突然ではあるが画面の前の読者の皆様、貴方には何か忘れられない後悔というものはあるだろうか。まるで人生を文字通り変えてしまうほどの、何か大きな後悔をされた事ってあるだろうか。
神が遺したと言われる天空に浮かぶ遺跡。遺跡を攻略し必要な糧を得ていく者達がいるこの世界。
この世界におけるクランのような部隊、騎士団の副団長を務める少女、アリア(表紙左)。彼女が出会ったのが「歴戦の傭兵」と呼ばれる凄腕の傭兵の主人公、アインハルト(表紙右)である。
どこかお調子者でありおちゃらけた言動を見せる三枚目でありながら、探索の際には頼れる背中を見せつけ皆を先導していく二枚目であるアインハルト。
そんな彼に振り回され掛け合い漫才のような会話を繰り広げていくうちに氷解していくアリアの心の壁。そして彼女が触れ目にしていくのが、アインハルトの心の中に消えぬ傷として残っていた過去の呪縛である。
あの日、自分だけが生き残ってしまった。あの日、自分が死んでいるのが当たり前だったはずなのに。
だからこそ彼は今も尚遺跡に挑み最前線を駆け抜ける。いつ砕け散っても良い鉄砲玉として。最前線の鉄火場の中に死に場所を探して。
「すみません、団長。私、間違えます」
そんな彼を死なせたくない、守りたい。だからこそと初めて命令を破り死地へと自ら飛び込んでいく彼女。
「一緒に間違えましょう、ハルト」
そして彼女を守りたい、共に脱出したいと願ったからこそ発現できた、彼だけの心の形が成した奇跡の魔法。
そう、この作品は天空に浮かぶ遺跡で偽物の神達と死闘を繰り広げる熱いバトルが魅力である作品であり、同時に少女が成長し青年が過去の呪縛を越え大切な一歩を踏み出す、成長と再生の物語でもある作品である。
ぶつかり合って、真っ直ぐに向き合って。だからこそ分かる、分かり合える。
新人賞作品というのは嘘ではないか。そう思わず思ってしまうほどに作り込まれ練り込まれた作品であり、粗削りな面白さではなく研磨され磨き込まれた面白さがある作品である。
おかえり、硝子の騎士。
この一言に込められている、全ての集約。
その集約が見てみたい読者様、面白い王道のファンタジーが好きな読者様にはお勧めしたい。きっと満足できるはずである。