読書感想:むすぶと本。 『外科室』の一途

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まずは一言。お帰りなさい。さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様、貴方は自分の本を大切に扱われているであろうか。もし貴方が持っている本と会話できたなら、貴方はどんな事を話したいだろうか。

 

さて、野村美月という作家の先生の事を最早説明する必要などない。少なくとも画面の前の読者の皆様には。その前提で話を進めていきたいが、知らないと言う人はとりあえず文学少女シリーズ辺りから今すぐに読んでいただきたい。

 

野村先生の真骨頂かつ十八番と言えば、そのするりと飲み込める摩訶不思議な独創性の高い世界。そして魅力的な登場人物達。そんな野村先生が断筆宣言を越え創り出されたのがこの作品である。

 

舞台はかつて文学少女とその後輩が通い、数々の出来事を通して成長したあの学園。登場するはあの先人たちの縁者と、かの後輩の周りにいた者達に何処か似た登場人物達。

 

そして、この作品の主人公を務める本の声が聞こえる普通の少年、むすぶ。そしてちょっと嫉妬深くて独占欲の高い、彼の恋人の本の夜長姫(表紙)がヒロインである。

 

本が恋人、というのはそのまま飲み込んでいただきたい。そういうものである。

 

重要なのは本の声が聞こえるという事。そして歴史の年表から生まれたばかりのライトノベルに至るまで、全ての本には心があり持ち主を愛しているという事である。

 

かつての持ち主の元に戻りたいと願う「長くつ下のピッピ」。

 

窮地に立たされた自らの創造者を想う一冊のライトノベル

 

鬱屈した闇を抱えた少年を見守った「〇〇〇」。

 

冒険に行きたいと願う「十五少年漂流記」。

 

そして、持ち主に届かぬ恋をしずっと側で見守ってきた「外科室」。

 

時に恋人のように、時に親のように、友達のように、家族のように。我々読者の一番近い隣人である本達は私達を見守ってきてくれていたのだ。そして、そんな彼等の声が唯一聞こえるからこそ、本の味方としてお人よしに本達の願いを叶える手助けをしてきたをしていくのが我等が主人公、むすぶである。

 

「ぼくは―――本の味方だっ!」

 

長靴下のピッピを持ち主の元へ届け、外科室の恋の終わりに自らの非力を自覚し涙する。

 

何の得にもなりはしない、何か良い事があるわけでもない。だけど味方をするのは、本を愛しているから。

 

そう、愛しているのだ。本を愛しているのだ。そしてそれはむすぶだけではなく、我々読者も同じく等しく持ち合わせているはずの愛なのだ。

 

だからこそ、この作品を読んだ時少なくとも私は涙があふれてきたのかもしれない。それほどまでに愛が詰まっているのである。

 

言うなれば、野村美月という作家の先生の真骨頂であり境地、そして新たな原点となるのがこの作品である。

 

だからこそ私は声を大にして精一杯に伝えたい。

 

これから先、ライトノベルという世界に飛び込みたい読者の卵様はこの作品から飛び込んでみてほしい。

 

本を愛する全ての読者様、今一度この作品で貴方の愛を見つめてみてほしい。

 

全ての読者に読まれるべき作品、令和と言う新たな時代を拓く一冊となるべき作品がここにある。

 

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追記:因みに外科室のお話の二人の恋はよいものであるが、現実であの二人のような行動を取ると恐らくほぼ間違いなく3桁万円の借金を背負いかねないので気をつけましょう。想いを確かめ合うのはお早めの方が良いのです。