まだ書き方が定まっていなかった頃の今読み返すと少し恥ずかしい前巻の感想はこちら↓
アナタハダアレ? 彼女は天ヶ瀬まなつ(表紙)。読モで天真爛漫、学園で一番彼女にしたいと言われる後輩であり伊織の彼女。だけど待って。ハタシテソレハセカイノシンジツナノ?
前巻、ちょっぴりうざくて可愛いヒロインの灯火とイイ感じになったと思ったら、実は伊織にはまなつという彼女がいたと判明する今巻。灯花とはまた違った感じで伊織を振り回しぐいぐいと迫ってくる彼女に振り回されながらも何だかんだと彼女とイイ感じになっていく伊織。
だが少し待ってほしい。何か大切な事を忘れていないだろうか。そして前巻を読まれた画面の前の読者の皆様であれば分かっておられる筈だろう。この作品には世界の法則も記憶すらも塗り替えてしまう、「星の涙」という厄介な代物が存在しているという事を。
そう、「星の涙」である。灯花の願いに絡まり騒動を起こしたこの謎の石がまた迷惑な事態を起こしていた、それこそが今巻の顛末の根底である。
では、世界を塗り替えてしまったこの願いの持ち主は誰か。それは無論、まなつである。では彼女の願いは誰の為か。自分の為? 否、彼女の願いは伊織の為だったのだ。
忘れられた記憶の彼方、そこに合ったのは伊織とまなつが共に同じ日々を過ごした幼き日の記憶。
まなつの記憶の奥底に根付いた後悔の記憶。それは自分の願いを叶えてしまい孤独になってしまった伊織を助けてあげられなかった事。
だからこそ彼女は星の涙に願った。また昔の伊織に戻ってほしいと。あの日のように一緒に過ごしたいと。
例えふたりの楽しい思い出が一日で無くなってしまうとしても、あの日の記憶が奪われてしまうとしても。
それでも、それでもと。まるでエゴを押し付ける事で彼に光を与えようというかのように。自分が暗闇に墜ちていくのと引き換えに彼を前へと押し出すように。
自らが犠牲になるのも厭わず、ただ幸せになってほしいと彼の為にと願うまなつ。それを止められるのはただ一人、伊織だけ。
彼は言った。「寂しいだろうが」と。自分が天ヶ瀬まなつと言う人間を必要としているからこそ、もう忘れさせるなと。
それは呪いなのかもしれない。彼から離れられなくなる呪縛のようなものかもしれない。だけど、それは確かに救いなのだ。
天ヶ瀬まなつという一人の純粋な少女の献身に向き合い、過去と星の涙の謎へと迫っていく今巻。
一巻を読まれた画面の前の読者の皆様は是非読んでみてほしい。一巻にも増して心を掴まれる事請け合いである。