前巻感想はこちら↓
やはり世界は滅びかけ、そんな世界で交わす約束は不確かかもしれないけれど、それでも確かな希望となるから。
さて、始まりの巻となる前巻でこの世界が滅びかけているという事を示しながらも、そこで懸命に生きている人達との出会いと別れを記したこの作品。ではこの巻では一体どんな物語が展開されるのであろうか。
その答えはまた、何処か温かくてほんのりと優しい物語という事である。
旅の道中での出会いと別れを繰り返しケースケとニトが共に旅を始めるまでを描いた前巻とは違い、今巻は前作である異世界喫茶の世界の繋がりも示される滅びかけの世界の中での旅の途中、とある「物語」を探す届け屋の少女、シャロル(表紙左)との出会いから始まる、旅の途中で立ち寄った村での数日の出来事を描いた巻である。
そして、そんな滅びかけていた村の中にも確かに生きている人たちが存在し、そこには幾つもの物語があったのである。
聖女様への祈りを欠かさない、靴屋のお婆さんがいた。
思索に耽りのんびりと隠居生活を楽しむ鼠の老人がいた。
滅んだ劇場に住み着く、自らの身体と性の不一致に悩む女性と、そんな女性に寄り添う恥ずかしがり屋の歌姫がいた。
あまりにも近くにいるのに、交わらぬ程に彼等の距離は何処か遠くて。そんな彼等を励まし、何とかしようとニトが提案したのはこの地方に伝わる伝統のお祭り、「灯花祭」の復活であった。
そして、準備を続け人々と交流を重ねていく中、ケースケとニトの二人は一番近くて一番遠い場所にいた彼等を繋ぎ、もう一度という希望を生み出していくのである。
互いを想うが故に擦れ違っていた親子を向き合わせ、歌姫を励まし舞台へ立たせ。
どこか諦念に縛られた作家をもう一度創作へと向き合わせ、そして探しものを見失い生きる希望を見失っていた運び屋の女性に希望を与え。
希望の箱、サブタイトルのその言葉が示すのは現代人なら誰もが持っているあの道具。そしてとある女性にとって新たなる生きる目的を示してくれた希望を詰めた、まだ見ぬ誰かへの贈り物。
「さびしいね」
「はい。さびしいです」
ずっとここにいたかった。だけど胸の奥、自らを突き動かす目的があるからこそまだ二人は止まれず。
「じゃあ、また明日」
「ええ、また明日」
だけど、当たり前な言葉で紡がれた何でもない約束が、こんな終わりかけた世界だからこそ明日を信じる希望となるから。
前巻にも増して、静かに染み入るような温かさと優しさが心に優しく響く、まるで心のお薬のように元気にしてくれる、静かで何処か寂しくて、だけど温かい今巻。
前巻を読まれた読者様は是非。きっと満足できるはずである。