前巻感想はこちらから↓
春雷、それはまるで恋のように落ちるもの。そして、目覚めの時が来たことを告げる、始まりのきっかけとなるものだ。
業界内話題騒然、婚活及び結婚相談所とまだ誰も見たことのない舞台で描かれるこの作品。しかし、この作品には足りないものがあった。それは何か?
それこそが題名にもありながら、全ての始まりとなった前巻では描き切れなかったもの、即ち「ラブコメ」だ。そして恋も、愛も、物語の始まりを告げる鍵となる一歩なのだ。
前巻に引き続き、結婚相談所での面白い婚活や婚活についてのあれこれを描きながら繰り広げられる日常。その中で登場する型破りな坊主や結婚間近の高木さんを始めとした登場人物達。その片隅で描かれる、前巻においての黒峰の想い。
そこで描かれるのは、幸せになりたい者達、彼等の人生を主人公として踊る者達の切なる願い。縁太郎と形は少し違えど誰かの幸せを願う仲人としての願い。そして、今巻で描かれる軸は「誰の為に婚活をするのか」という軸である。
その軸を担うは、玉の輿で返り咲きを狙う姉御肌なお嬢様、早乙女カレン。元の世界に戻りたいと願いながらも、いつも誰かに主役を譲り、自分は汚れ役となってでも舞台の端で踊る彼女。もっと強欲になればよいのに、自分を甘やかせばよいのに。だけど、それでも。彼女は願う。誰かの幸せを一番に。
そんな彼女の婚活の根底にあったのは、あの世界に戻って再会したいと願う「彼女」の為。「自分」の為ではなく「誰か」の為。そして忘れられぬ華美なあの世界の残滓がまるで終わらぬ魔法の迷宮がシンデレラを縛り付け、終わらぬ夢の中で踊らせようとするかのように彼女の心を縛り付ける。
だけど。そんなカレンを救ってくれる人がいた。再会したいと願っていた「彼女。そして我らが頼れる主人公、縁太郎である。
「私は、嬉しく思います」
自らの世界で幸せを掴んでいた「彼女」の言葉が救いとなり縛る鎖に亀裂を走らせ。
「最高の笑顔で、バージンロードを歩けるからよ」
誰よりもカレンの幸せを願い、過ちを受け止め正す縁太郎が鎖を打ち壊した。
「わたくしはちゃんと結婚して、幸せになりますので」
そう、この言葉が出せた時に彼女の本当の意味での婚活は始まったのだ。十二時を過ぎて魔法が解けて、ガラスの靴を無くしたシンデレラが、自らの勇気で一歩を踏み出し自分だけのガラスの靴で歩き出せた。かけられた魔法ではなく、十二時過ぎの自分だけの魔法をその手に新たな光へと会いに踏み出せたのだ。
「負けませんわよ」
本当の意味で、自分の物語という舞台で主役として踊り始めたカレン。彼女が結衣へと告げたのは、縁太郎は譲らないという自分の願い。
それに対し、結衣は? まだ名もなき主役にもヒロインにもなりきれぬ未熟なプリンセスはどうするの?
画面の前の読者の皆様、刮目してほしい。そして、また彼等に会いに行ってほしい。
「結婚が前提のラブコメ」、遂にここからラブコメに火は灯る。そして、ラブコメが動き出し本当の意味でこの作品は始まるのだ。ここからがこの作品の本当の始まりだ、だからこそ見逃さないで。
お楽しみは、これからだ。