さて、この作品の感想を書く前に画面の前の読者の皆様に一つお聞きいたしたい。もし貴方が、童話の登場人物と実際に触れあえるのなら、貴方は誰がよいだろうか。
さて、ではこの作品の頁を拓いて、まずは何を説明しようか。まず初めにこの作品の世界には「輝く童話」と呼ばれる、童話の概念の集大成のような特別な一冊の本が存在しており、童話の登場人物への親和性、童話への愛等様々な要素によって、物語の力を引き出せる所有者へと選ばれる人間が存在する。そして、所有者や童話達が起こす事件を隠蔽し秘密裡に解決する組織、ライブラリアンが存在するという事を画面の前の読者の皆様にはご周知いただきたい。
今回、まるで物語の主人公のような立場へと偶然選ばれた少年、古今東西の童話を愛する童話バカな少年、幸也(表紙右)。そして彼を所有者へと選んだ長靴をはいた猫の登場人物、ネコ(表紙左)が出会う事からこの作品は始まる。
唐突に所有者へと選ばれ、物語の登場人物へと襲われネコに振り回される幸也。かと思えば桃太郎の物語の所有者、吉備(表紙中央奥)へと誘われ、ライブラリアンの見習として街を襲う昏睡事件へと飛び込んでいく。
昏睡事件の犯人、それは「眠れる森の美女」。「いばら姫」とも呼ばれる物語である、しかしこの事件の犯人は「眠れる森の美女」である。
ここまで少ししつこく語った事でもう画面の前の読者の皆様にもお判りいただけただろうか。小さくて大きなその違いこそ、事件を解決する鍵であり。事件の根底にあったのは自分の役割に縛られるキャラクター達の悲哀の叫びだったのである。
そう、実体化している以上彼等にだって自らの心がある。しかし、彼等は何処まで言っても童話の登場人物であり、まるで心に刻み込まれたかのように役割には逆らえぬ。だけど、それでも。時代の中で変えられ捨てられていく自分達を忘れないで。そう高らかに叫ぶ哀切こそが今回の事件の根底だったのだ。
「俺は、あんたの物語を覚えているよ」
だからこそ、例え気休めだったとしても。彼のその言葉に一抹の救いがあったと信じたい。
あっさりと軽く読めて童話にも詳しくなれるこの作品。手あかがつく程に読み込まれた作品のように、丁寧に作られた作品が読みたい読者様は是非。きっと満足できるはずである。