前巻感想はこちら↓
突然ではあるが画面の前の読者の皆様、貴方はバタフライ効果ってご存じだろうか。
そう、蝶の羽ばたきが巡り巡って竜巻となるというあの仮説である。では蝶の羽ばたきよりも何倍も苛烈といっていい程の変化、郁達の世界という水面に落ちた燈華という石が巻き起こした波紋は何を巻き起こすのだろうか。
郁と新登場の紫織という少女(表紙左)が付き合っているという謎の事態から始まる今巻。ではその紫織とは一体、どんな少女なのだろうか。
画面の前の読者の皆様、どうか誤解しないでいただきたい。紫織は決して悪役などではない。彼女もまた、一人の恋する少女なのであるという事を覚えておいてほしい。
燈華という石が巻き起こした波紋が起こしたのは、瑛理子、莉生、凜々花の三人の誰かとの未来の先に燈華が待っているという確定された未来。だが、紫織は? そう、彼女との未来の先に燈華はいない、そんな残酷な事象が確定してしまった。
目の前で郁が三人の少女達と仲良く過ごすのを見ているしかなかった彼女の心情は
「だけど叶わない」
この一言に集約されてしまう。
そんな哀しき結末を押し付けられた彼女に訪れた幸運の正体。それは世界の修正力が巻き起こした常識の改変という思いもかけないものだった。
ここまで読んでくださった読者様、もうお分かりいただけただろうか。そう、空音紫織という一人の少女は世界の被害者であり、郁を愛する一人の少女だったのだ。
彼女の愛は三人の誰とも違う。その愛はまるで燃え盛る炎のよう。燃える恋心を小悪魔の仮面で押し隠し、自信満々な態度の裏に不安を隠して。
自分では郁の特別にはなれない、自分の事なんて見てもくれない。
だけど好きの心は止められないから。自分だけを愛してほしいから。
そこにあったのは誰よりも眩しくて純粋な恋心。それこそはママ会に入るための条件。
そして、ここからが郁のターンである。
「燈華がさ、俺に色んなことをおしえてくれたんだ」
もうあの時のような彼じゃない。愛する娘から、母親となるかもしれない少女達から受け取った愛を胸に成長した彼が、今度は紫織に手を差し出し、笑う燈華は彼女に告げる。
いいじゃないか。誰かを好きになった気持ちは止められないから。貴方にも一緒にいてほしいと。
今巻のテーマは「変質」、「変わらないもの」、そして「受容」という三本の柱に集約される。そして三本の柱の上に、更に賑やかさと面白さを増した、深い「愛」の物語が描かれているのである。前巻を読んだ読者様、どうか今すぐ読んでいただきたい。絶対に損はしない筈である。
再び娘を見送り、関係性を少し進める一歩を踏み出す郁。新たな因子も加わり未来は未定、だからこそ世界は面白い。
もっとこの先まで、燈華と郁が本当に出会うまで。そこまで読んでいたいと切に願う次第である。