読書感想:こわれたせかいの むこうがわ ~少女たちのディストピア生存術~

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突然だが画面の前の読者の皆様、貴方は何かラジオ番組を聞かれるだろうか。聞かれるならば、貴方はどんな番組が好きだろうか。

 

さて、この作品の舞台は世界で唯一残ったという触れ込みの人の国。この国では全ての人民が王への献身を強いられ、絶対的な階級の元に最下層の人々は貧苦を歓びとして強いられる。

 

この世界の中々の悲惨ぶりがよく分かる点として、主人公であるフウ(表紙右)の地の分での言葉遣いが挙げられるだろう。

 

地の分が一部平仮名であったり、電器屋という店の判別を文字ではなく光る看板で行っていたり。ここから見て取れることはただ一つ、最下層に行くほどに教育すらも行き届いておらず、人々はまるで大切なものを教えられる事もなく成長し死んでいくという事である。

 

そんな彼女の先生となるものがあった。それは彼女が拾ったラジオである。

 

ラジオから流れてくる、様々な事を教えてくれる授業。そして名も知らぬ聞いたこともない歌の数々。彼女と先生は直接は繋がっていない。一方通行である。だけどそれでも、先生達が話してくれる授業はフウという少女を成長させる一因となっていくのである。

 

そんな彼女が出会うのは、何故か彼を兄と呼ぶ謎の少女、カザクラ(表紙左)。マイペースで獣っぽくて、だけど時々謎の一面を見せる彼女になつかれるフウ。ラジオを先生とし、二人で懸命に生きていく退屈な日々。

 

そして、成長を遂げた彼女を待っていたのは、残酷なまでのこの国の真実だった。

 

そもそも本当にこの国はただ一つなのか。王とは何者なのか。不都合な真実を知った彼女を消そうと迫る正義の組織。傷つき倒れ、駆けるフウ達。

 

その彼女達に手を差し伸べたのが、お手紙という形で繋がった、電波の向こうの先生達だった。

 

「必ずこの地で会おう」

 

会いたいという声、そして応援に背を押され彼女達は再び正義と相対する。

 

そう、この作品は成長と繋がりの作品である。フウという一人の少女が授業を通して成長し、家族を得て孤独の中で繋がりを得て立ち上がるお話なのだ。

 

やっぱり、孤独よりはずっといい。

 

誰に言うでもなく呟かれた彼女の言葉。これこそが成長が結実し、大切なものを見つけた彼女だから言えた言葉なのだろう。

 

残酷な世界で懸命に生き抜く子供達の物語が好きな読者様は是非に。きっとお楽しみいただける筈である。

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