読書感想:住職探偵

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突然ではあるが画面の前の読者の皆様、貴方は何か信仰している宗教はあるだろうか。因みに我が家は一応浄土真宗の檀家である(要らない情報)

 

さて、この作品の主人公の誓之助(表紙左)は探偵である。ここまでは推理小説ではよくある人物設定であるが、彼がそこから一歩も二歩も外れているのは、彼が元僧侶であり、とある罪、人としても僧侶としても犯してはいけない罪を犯しているという事だろう。探偵であり僧侶である、この事が重要であると御記憶願いたい。

 

そして最も重要なのは、この作品の舞台。まるで陸の孤島と言ってもおかしくないであろう山奥の限界集落、奥世村である。この村が只の限界集落であるかといえばそうではない。では何が違うのか。

 

それはこの村こそ神仏分離から逃れてきた者達で作られた村、即ち私なりの言葉で言うなれば捨てられた信仰の安息の地であるという事だ。

 

漢音阿弥陀経という聞きなれぬ経文に始まり、閻羅王授記四衆逆修生七往生浄土教という一見すればどう読んでいいのか分からぬ経文が出てきたかと思えば、無量寿経法華経に始まり更には阿弥陀如来といった聞き覚えのある仏がいたと思えば切支丹の教会もあって、能登地方に伝わる儀式をやっている家の隣家で地蔵盆が行われていたり。

 

何を言っているのか分からないかもしれないがこれは全て事実である。つまり、この村で宗教はとても大事であり人々の心の柱となっているという事である。

 

だが、閉ざされた限界集落であるからこそ絶対的な権力を持つ大家があり、そしてカルト宗教の名が相応しい土着の宗教、厖臓宗がこの村には存在している。

 

事件を起こすのは厖臓宗。姿の見えぬ、謎の多い者達を追う誓之助。

 

ここから先は事件の詳細に触れる事となってしまうので是非自分の目で確かめてみてほしい。私はその取っ掛かりとなるかもしれぬ事だけを今から語る事にする。

 

この村に存在していたのは、誰もが知っていながらも触れようとしなかった歪みと闇だった。

 

そして、闇への反感を持った者達が脈々と継いでいく宗教こそが厖臓宗である。

 

だけど。このどうしようもない歪みを終わらせるものこそ脈々と村の者達に受け継がれてきた村の教えだった。

 

憎悪と悪が受け継がれるように、愛と願いもまた受け継がれるもの。

 

 

推理ものが好きな読者様、宗教に興味のある読者様、何処か不思議で歪な一つの異世界に迷い込みたい読者様。是非この作品を読んでみてほしい。きっと未知の世界に迷い込めるはずである。

 

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