・・・いったい私は何を読んでしまったのだろう?
読み終えた後、そう思わず誰かに問うてしまいたくなるのがこの物語であるのかもしれない。
新人賞受賞作でありながら審査員の票が真っ二つに割れたと話題の物語、どうかその理由は読んで確かめてほしい。
物語の主軸としては二つ。謎の主催者の掌の上、異能を用いて殺し合いを繰り広げる若者達。そして敗残者となり物言わぬ骸となった若者達を事件として捜査する警察の大人達。
そう、殺し合いである。命が全く以て軽い、軽すぎる。戦った以上、そこには勝者と敗者しか存在しない。故に戦いの中の命は軽く、血をまき散らして多くの命が散って逝く。
その中へと巻き込まれ、自分には何か特別な異能があるのではと思い込み、その予想に裏切られ命を奪われる少年。
だが、その死すらも覆る、幾度目かの覆しの中で。
彼は最初からそこにいた。命を奪い合う若者達の中で確かに息づき目撃していた。
「僕はアカだった。僕は轟巧だった。僕は美久月奏だった。僕は八色真澄だった。僕は大迫祐樹だ。」(289頁)
この一文へと全ては収束し明らかとなり、最強の敵の前に主人公は立つ。
これは確かに異能の物語、そして主人公とヒロインがいる物語である。
私の解釈は正しくないのかもしれない、だからこそどうか読者の皆様、読んで自分だけの解釈を見つけ出してください。一冊で危ういバランスに見えてきっちり纏まったこの物語、頭がこんがらがるかもしれないがこの物語にしかない独特の味が味わえること請け合いである。