読書感想:たとえば俺が、チャンピオンから王女のヒモにジョブチェンジしたとして。3

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前巻感想はこちら↓

読書感想:たとえば俺が、チャンピオンから王女のヒモにジョブチェンジしたとして。2 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。このシリーズをここまで読んでこられた画面の前の読者の皆様であれば、主人公であるフウタの強さは既にもうご存じであろう。彼は強い、「無職」だけれど強い。だが、彼には足りないものがある、と言ったら画面の前の読者の皆様は彼には何が足りないのかお分かりであろうか。「愛」と答える読者の皆様、それはそれで正解である筈。では「夢」と答える画面の前の読者の皆様はどれほどおられるだろうか。

 

フウタとライラック食客と主。男と女としてはどこか近くて遠い、微妙な関係の二人。

 

けれどフウタの周りには、かつての剣闘士時代から多くの人の輪があって、どんな時でも彼は様々な人に囲まれている。

 

けれど自分はどうか。本当に自分は、彼の一番側にいると言えるのか。コローナを取り戻しもう一度始めた日々の中、ライラックの心の中にはふと、何処か揺れる感情は芽生えだす。

 

 そんな彼女に持ち込まれる縁談。その相手は動乱に揺れる島国の王子、バリアリーフ(表紙下)。フウタと過去に戦った経験を持つ因縁の相手。彼と対峙するフウタに訪れるもう一つの出会い。その出会いの主である幼女の名はルリ(表紙中央)。ウィンドの娘であり、天真爛漫な少女。

 

彼女との出会い、そして彼との出会い。邂逅が齎すのは懐古。フウタは否応なく過去を思い出し対峙する。チャンピオンとして君臨していた、何にも期待していなかった、何処か空虚な日々ばかりが続いていた昔話と。

 

だが、戦いの中で彼は知る。バリアリーフの本心を。枯れ木のようだった過去の彼に火を灯そうとしてくれていた沢山の好敵手達の思いを。自分が、確かに誰かの希望になれていた事を。

 

「わたしの隣にいてください」

 

「一番近くにいてください」

 

そんな彼へと告げられる、ライラックの本心。計算高い彼女が計算するのではなく、ただ願いから口にした彼への素直な願い。

 

 その答えは、もう決まっている。言うまでもないだろう。彼の心はもう決まっている。だって彼の中にも、今確かに生まれた願いがあるから。

 

個性が爆発した面々がこれでもかと登場し、剣戟が舞い踊りぶつかり合う。挑む者と挑まれる者。根っこは同じな者達の思いが激突する今巻。

 

 

このシリーズのファンの皆様、独特の熱いバトルが好きな読者の皆様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

たとえば俺が、チャンピオンから王女のヒモにジョブチェンジしたとして。3 (ファンタジア文庫) | 藍藤 唯, 霜降(Laplacian) |本 | 通販 | Amazon

 

 

読書雑記:発売日前恒例、新刊紹介なお話。MF文庫J及びオーバーラップ文庫、ダッシュエックス文庫編。

こんばんは。二月もそろそろ終わりますが皆さまいかがお過ごしでしょうか。私は日々仕事に精進しています、真白優樹です。では今日は、もうすぐ発売の三レーベル分の新刊の中から、このブログで記事にする予定の新作及び続刊について取り上げたいと思います。

 

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・キミに捧げる英雄録1 立ち向かう者、逃げる者

 

・著:猿ヶ原先生 絵:こーやふ先生

 

ではまずはこちらの作品の紹介です。こちら、web上で大人気を博されている熱さとエモさ爆発の新時代ファンタジーと銘打たれた新作となります。ファンタジー好きとしては、熱さとエモさ爆発といううたい文句の中、どんな物語を見せてくれるのか。そこを楽しみにしたいと思います。

 

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・元カノとのじれったい偽装結婚

 

・著:望 公太先生 絵:ぴょん吉先生

 

二作品めはこちら。望 公太先生と言えば今押しも押されぬ年上ヒロインものの大家の先生でありますが、果たしてこの作品ではどんな年上ヒロインを見せてくれるのか。題名から既に楽しみになってきます。

 

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・終焉ノ花嫁3

 

・著:綾里けいし先生 絵:村カルキ先生

 

では今月のMF文庫Jの作品はこちら。残念ながら、今巻で最終巻となってしまう作品です。既に表紙からして大変な事になっていますが、果たしてコウは最後に何を掴むのか。楽しみです、怖いですが。

 

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・ブラックな騎士団の奴隷がホワイトな冒険者ギルドに引き抜かれてSランクになりました3

 

・著:寺王先生 絵:由夜先生

 

ではここからはオーバーラップ文庫より、今月は続刊系作品三作品の紹介です。こちらの作品では、今度はエルフの国で仲間と共に大暴れとの事で、どんな戦いを繰り広げるのか。楽しみですね。

 

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・最凶の支援職【話術士】である俺は世界最強クランを従える3

 

・著:じゃき先生 絵:fame先生

 

二作品目はこちら。今度は大手ギルドとの激突が始まるとの事で、果たしてノエルはどんな話術で戦うのか。そこに期待したいと思います。

 

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・犬と勇者は飾らない2

 

・著:あまなっとう先生 絵:ヤスダスズヒト先生

 

ではオーバーラップ文庫最後の作品はこちら。前巻の最後でとんでもない事になっていましたが、果たして今度はどうなるのか。楽しみです。

 

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・鎌倉源氏物語 俺の妹が暴走して源氏が族滅されそうなので全力で回避する

 

・著:春日みかげ先生 絵:猫月ユキ先生

 

ではここからはダッシュエックス文庫の作品の紹介です。こちらは織田信奈の野望シリーズ等、歴史ものの大家と言っても過言ではない春日みかげ先生の新作となります。非業の兄弟をモデルに繰り広げられる新しい歴史、どんな面白さが待っているのか楽しみですね。

 

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・堕ちた大地で冒険者 ~チート技術と超速レベルアップによる異星無双~

 

・著:謙虚なサークル先生 絵:高峰ナダレ先生

 

続きましてはこちら。web小説を連載し多数の書籍化作品を手掛けられている謙虚なサークル先生の新作となります。ファンタジー×SFとはどんなものとなるのか。楽しみです。

 

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・不屈の冒険魂2 雑用積み上げ最強へ。超エリート神官道

 

・著:漂鳥先生 絵:刀彼方先生

 

では最後、三作品目はこちら。雑用を積み上げ彼だけの武功を積み立てる彼は、今度はどんな敵と戦うのか。楽しみですね。

 

以上、期待の九作品でした。ではまた発売されたら読んでいきましょう。

 

読書感想:【朗報】俺の許嫁になった地味子、家では可愛いしかない。

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方は趣味の合う友達はおられるであろうか。趣味の合う、誰よりも打ち解けて話せる友人は何よりも貴重な存在である、それは確かである。では、趣味の合う異性の友人がいると言う読者の皆様はどれほどの数おられるであろうか。

 

両親の離婚、そしてこっぴどくフラれた過去のトラウマ。そんな拭えぬ過去から、三次元の女性に幻滅し二次元の女性のみを愛すると決めた少年、遊一。

 

 だがしかし、はじまりはいつも突然に。運命の女神というのがいるのならまるでこの出会いはいたずらと言わんばかりに、彼に運命的な出会いが訪れる。

 

海外にいる父親により急に決められた婚約。あれよあれよという間に引き合わせられる婚約者。

 

 その彼女の名は結花(表紙)。クラスでは無口で物静かな、何処か謎めいた少女である。

 

是非もなく断る筈だった、いきなりの婚約話。

 

「――――さ、最近の推しヒロインは誰ですか?」

 

だがしかし、自分の推し声優の中の人であると名乗った結花の唐突な一言により事態は図らずも急転していく。

 

その場で判明したもう一つの事実、それは結花をずっと支え続けてくれた、ずっとファンレターをくれたファンが遊一であるという事。

 

―――この出会いは、運命かもって。

 

彼女が零した言葉の通り、この出会いはまるで運命の赤い糸がお互いを求め呼び合ったかのように運命的で。

 

「なんか、荷物が運ばれてくるとさ。今日からここで遊くんと一緒に暮らすんだなぁって実感が湧いてくるよね」

 

 ひとまずは許嫁から始めよう。その約束の元始まった二人の同居生活。その中、遊一は結花の自分しか知らぬ一面をどんどんと知っていく。

 

学校ではつんつん、我関せずと言わんばかりに他人事。

 

「絶対もっと、大きくなってやるんだからね!」

 

「私の方は・・・・・・覚悟、してたんだけどな」

 

だけど家では二人きり。その小さな世界では饒舌で明るくて。表情豊かにぐいぐいと距離を詰めてくる女の子で。

 

 どんどんと増えていく、自分しか知らぬ顔。そして自分にだけ向けられる、結花の献身的な愛。その愛がいつしか、遊一の心の穴を埋め、彼を知らぬ間に変えていく。

 

「そうかな・・・・・・案外こういうの、得意だよ」

 

結花の芸能生活を阻まんとする危機が訪れた時。今までの遊一であれば我関せず、その筈だった。

 

けれど今、自分は彼女の「夫」である。嫁を影ながら支える、それこそが夫の、彼女だけのヒーローの務めであると。

 

大好きな何かを犠牲にしてでも彼女の為に。もう彼女はそれほどまでに大切だから。

 

「―――私も。世界で一番、愛してるよ・・・・・・遊くん!」

 

向き合い話して分かり合い。心重ねて響き合う。二人だけの時間と秘密を重ねて、「許嫁」を超えて「夫婦」に、「家族」になっていく。

 

そう、「家族」は一人だけでは出来ないから。何もかも話せて、お互い何も言わなくても信じあえる。だからこそ家族になれるから。

 

正直に言おう、正に至極で至高。この作品は間違いなく尊い。私はそう断言したい。心が尊いと叫びたがっているように、まるで五臓六腑に染み渡るかのように。可愛く甘く、そして確かに温かい。そんな二人だけの絆が丁寧に描かれているからこそ、この作品は立ち上がって拍手を送りたくなるほどに、ラブコメとして一つの究極形なのである。

 

全てのラブコメ好きな読者の皆様、ギャップのあるヒロインが好きな読者様は是非。

 

また一つ、この世に尊い作品が生まれる瞬間に立ち会える筈である。

 

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読書感想:最強不敗の神剣使い1 王立学院入学編

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問:喋る剣と言えば?

 

答:デルフリンガ―(世代が古めの真白優樹である)

 

さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。昨今のファンタジーの流行と言えば追放ものである、と言っても過言ではないのだろうかと突然だが私は言ってみたい。事実、ハイファンタジーの世界を舞台に、追放から始まる作品も最近増えてきているのは、画面の前の読者の皆様もご存じであろう。

 

 ではそんな追放の憂き目にあう主人公は、どんな理由で追放されるのか。理由の一つとして多いのは恐らく無能の落胤を押される事であろう。しかし、その落胤は様々な理由で間違いで在り、主人公は実は最強クラスの力を秘めていると言うのはよくありがちな事である筈である。

 

この作品の主人公、リヒト(表紙右)もまた、生家である名門貴族の家から追放された少年である。彼が追放された理由は只一つ、彼が当主の落胤であり「忌み子」であるという事。

 

 だがしかし、彼は「忌み子」であっても「無能」ではなかった。その身には今まで磨き上げてきた天賦の剣術の才と、周囲を軽く圧倒するほどの魔法の力があったのである。

 

家を追放され、義妹がこっそり持たせてきた喋る神剣、テイルウィングと共に冒険者となるべく旅を始めるリヒト。

 

 その旅の途上、彼はメイドを護衛として引き連れる旅の少女と出会う。彼女の名はアリアローゼ(表紙左)。その身にどの属性にも属さぬ「無」の属性の魔法を備えた、周囲から忌み嫌われながらも理想を追い求める王女である。

 

「はい。わたくしは女王になる。女王になってこの世界を変えたいのです」

 

持つ力は無力、それどころか権謀術数渦巻く魔界と化した王宮で戦うには似つかわしくない優しさを捨てきれず。それでも、優しさを捨てもせず全てを救いたいと必死にもがくアリアローゼ。

 

「アリアローゼ様―――。・・・・・・俺は自分の中の聖母様を見つけたのかもしれない」

 

その優しき理想は、リヒトの心の中に差し込む光となり。彼女の理想に感化され、リヒトは彼女の騎士となり、彼女を護衛するために王立学院へと共に入学する。

 

 

入学試験で妨害を仕掛けてくる刺客達を圧倒的な力で叩き潰し。貴族に決闘を挑まれたかと思えば規格外の力を見せつけ退け。

 

始まるのは、何処か世間知らずの危なっかしさが招く、隠し切れない実力が導く動乱の日々。陰謀渦巻く学院の中、自然と台風の目となり全てを見返していくリヒト達。

 

 

だが、彼は最強では決してない。剣技はあれど、身に着けた神剣は未だ本調子とは遠い只の名剣。対し、襲い来る刺客が使いこなすは特殊な力を秘めた魔剣。

 

その戦いの中目覚める、アリアローゼに秘められた「無」という力の本質。善でも悪でもない、無だからこそ使える力がある。

 

「おまえは人間の命を侮辱し、姫様の名を辱めた。生きる価値がない」

 

その力が目覚める時、リヒトに理外の力が齎され。無故の境地が悪を討つ力となる。

 

王道だからこそ熱く、決して最強ではなく傷つきながらも進むからこそ面白い、この作品はそんな作品である。

 

王道ファンタジーが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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読書感想:宮廷魔法士です。最近姫様からの視線が気になります。

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。ストーカーというのは無論犯罪である、悪い事である。警察に通報してしまえば、悪質ならば一発で逮捕な案件である。それは画面の前の読者の皆様もご存じであるかもしれない。ではもし、ストーカーしている側が警察でも止められぬような立場の人間であるとしたら、一体どうなってしまうのであろうか。

 

とある異世界のとある王国。その宮廷に属する魔法使いの部隊の一員であり、最年少の宮廷魔法士として日々任務に励む少年、レイズ(表紙右)。

 

 兵器として扱われ、先輩たちから時々仕事を押し付けられたり使い走りとしてこき使われ溜息を吐きながらも仕事をこなす彼には最近、とある悩みがあった。それはこの王国の姫であるリシェナ(表紙左)に何故か最近、物陰からやたらと熱い視線で見つめられるという事である。

 

隠しきれてもいない視線はバレバレ、だけど声をかければ逃げるばかりで話にならず。不可解な現状に首を捻るレイズ。

 

「お前・・・・・・罪な奴だな」

 

 これは一体どういう事か。無論、画面の前の読者の皆様はもうお分かりであろう。そう、リシェナはレイズに惚れているのである。それをレイズだけは知らず、彼女の想いに気付いてすらいないと言う図なのである。

 

その心の中にあるのは、かつて賊に襲われた時に助けてくれたその背中。その背中が焼き付き離れず。その想いが思慕に変わるのはある意味当然出会ったのかもしれない。

 

だからこそ、彼の事が気になるし独占欲という名のやきもちだって抱いてしまう。

 

「その・・・・・・私も、名前で、呼んでほしい、です」

 

深夜の逢瀬、彼にやきもちを抱き名前で呼んでとお願いしたり。

 

「に、似合わないですか・・・・・・?」

 

お祭りの中での秘密の逢瀬、彼に服装を言及され思わず不安になったり。

 

 身分違いの密やかな、けれど確かに甘い恋。けれどレイズは気付かない。気付かないけれど、それでも彼は任務のままに、リシェナを守る為に、彼女を狙う賊へと立ち向かう。

 

「申し訳ありません、殿下。遅くなりました」

 

その姿は、ずっとリシェナの心の中にいた、ずっと待ち焦がれていたあの日の姿のままに。

 

「相手が悪かったね。僕は、どんな状況や地形だろうと、狙った相手に魔法を命中させる―――スナイパーなんだ」

 

そして彼は、時に追い込まれ傷つきながらも諦めずに戦う。超長距離からの狙撃に特化したその力で。

 

 

何処までも王道ど真ん中、そしてド直球なファンタジーとラブコメ。そんな要素を愉快な面々で色付けているこの作品。王道だからこそ面白い。この魅力、是非とも逃さず見てみてほしい。

 

王道なファンタジーとラブコメが好きな読者様、決して最強なだけではない主人公が好きな読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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読書感想:培養カプセルを抜けだしたら、出迎えてくれたのは僕を溺愛する先輩だった

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方は遊戯王カードにおける「死者蘇生」をご存じであろうか。決闘者の方々であればかのカードの効果はよくご存じであろう。 では前置きはさておき、「死者蘇生」という行為については皆様はどう思われるであろうか。例えばファンタジーの世界であれば、禁忌であっても高度な魔法であっても時折存在するその行い。だが果たして、蘇生された人間は果たして本人と言えるのだろうか。その行いは、果たして良い事なのだろうか。

 

 ごく普通の少年、和真(表紙右上)。彼の意識が目覚めた時、何故か彼の身は謎のカプセルの中にあり。自分の身を包んでいた謎の液体から出た時、彼は何故かその身に違和感を感じる。

 

 そんな彼を迎えたのは、付き合ったばかりの恋人である先輩であり資産家一族の少女、薫子(表紙左下)。だが、事態は単純な感動話では終わらなかった。

 

「落ち着いて聞いてくれ。君は、一度死んだのだ」

 

彼女は告げる。和真は一度人間として死んでいる。そして今、その身はひとかけらの細胞から培養、複製した本人の身体に脳からサルベージした記憶を転写した存在である事。

 

「私にどうか、時間をくれ」

 

そして、その蘇生を為したのは薫子であるという事。テロ事件の中、自分を庇い命を落とした彼を蘇らせるため、薫子は科学に魂を売り、自らも身体を三十三回も複製し乗り換えながら研究を続け、全てを彼の為に捧げ復活させたのだ。

 

無論そんな研究が一朝一夕で出来る訳もない。彼女が研究に費やした歳月、数えて二百四十年。

 

 その間に世界は大変革を遂げ文明は崩壊し。ほぼ全てのものが緑に飲み込まれた終末世界へと、世界は変貌していた。

 

そんな世界の中、まずは運動能力を取り戻すためにトレーニングを始め、徐々に元の自分へと近づいていく和真。

 

そんな生活の中、逃亡者である少女、ノゾミとの接触を切っ掛けとし、薫子と和真は外の世界へと目を向け、二人で少しずつ踏み出していく。

 

ある時はかつて通った学校の跡地で野党の面々と激突し。またある時は、野生化して巨大化した豚を狩り。更にある時は、現存していた人間のコミュニティーを襲う賊を撃退するために戦い。

 

「僕も手伝いますし、ノゾミだっている。ラボにはマヤがいますし、仕える手段や機材もたくさんある。僕たちは、この世界で何だってできますよ」

 

 そんな日々の中見つけた、文明再興という新たな夢。そう、この世界は何処まで行っても自由であり何だってできる可能性に満ちている。そして最早、二人を縛る「目的」という重荷もなく。だからこそ今、新たな夢に向かい歩き出せる。

 

新たな世界を一歩ずつ探索する面白さと、ここにしかない青春が光るこの作品。

 

未開の世界が好きという読者様、何処にもない面白さを見てみたい読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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読書感想:塩対応の佐藤さんが俺にだけ甘い4

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前巻感想はこちら↓

読書感想:塩対応の佐藤さんが俺にだけ甘い3 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

さて、前巻では夏休み、その中での押尾君との恋人同士としての絆を一歩深めた我等がヒロイン、佐藤さん。彼女は恋人同士としての絆を一歩深めると共に、アルバイトでの様々な人達とのかかわりを通じて、確かに成長を遂げていた。そんな心の成長は、学校生活といういつもの場所、自分が未だ誤解されたままの場所でも、己を変えていこうと彼女の背を押す。

 

「それだけじゃ、いつもと変わらない気がして・・・・・・」

 

自分を変えたい、だからこそ一歩踏み出したい。変化を決意する彼女は、学園祭である桜華祭までに友達を作る事を決意する。

 

 そんな彼女が目を付けた相手、それは級友であり演劇同好会会長の澪。折しも時節は桜華祭の準備で盛り上がっていく最中。学園祭の準備を生かし、彼女に接近しようと試みる佐藤さん。

 

「バカにされた・・・・・・っ!」

 

だがしかし、澪はまるで塩対応と言わんばかりに佐藤さんを拒み、素っ気なくしようとしていた。そんな彼女の心の中にあるのはちょっとした過去の因縁。そこから導き出された、「佐藤さん」という存在への虚像である。

 

それを知ってか知らずか、めげる事無く諦めず、何度もトライしようとする佐藤さん。だが、彼女を見守る押尾君の心中には何やら、言語化しづらい初めての気持が芽生え始める。

 

その気持ちがぎこちなさを招きだし、少しずつ何か妙な空気を孕みだす二人の関係。更にそこへ水を差さんとするお邪魔虫共の影。その名は「塩対応の佐藤さんファンクラブ」。彼女にフラれた被虐趣味者共の、塩対応な彼女を取り戻さんとする邪な思惑。

 

「・・・・・・俺はこれ以上佐藤さんが変わっていくのが、怖かったのかもしれない」

 

ようやく言葉に出来た彼の、どこか子供っぽい感情すらも押し潰すように邪な思惑は弾け、その余波が演劇同好会の舞台を壊してしまう。

 

だが、ここからが今までの佐藤さんとは違う。今までだったら、立ち止まり手を伸ばせなかったかもしれない。けれど今、その手は成長した心に支えられ、背は成長に押され一歩踏み出す。

 

彼女の提案により皆で挑む即興劇。妨害も何のそのと、可能性をこれでもかと発露させ、道筋は今この場で決めると言わんばかりに作り上げられる、混沌の中に筋を通した即興の喜劇。

 

「―――そんなキミの隣を、歩きたいと思う」

 

その劇の中、押尾君は新たな自分の道筋を見出す。独占するだけでも見ているだけでもない。一緒に学び成長し、共に歩いていくという恋人同士としての新たなる道を。

 

「―――大好きな人からやきもち焼かれるのが嫌いな女子なんていないんだよ」

 

彼女を想い身を引くのではなく、共に一歩ずつ。だからこそ共に成長していける、歩んでいける。

 

再びの試練を乗り越え、ビターも乗り越え恋人同士として更に一歩、新たなステージへと進んでいく今巻。

 

シリーズ読者の皆様は是非。今巻もまた最高であるから。

 

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